鹿児島県立黎明館で開催された「黎明館の至宝展」。数ある展示品の中でも、ひときわ私の心を捉えたのは、江戸末期の薩摩藩士、樺山資紀が愛用していたというイカエギ(烏賊餌木)と餌木箱であった。
ガラスケース越しに見るその姿は、まるで芸術作品のよう。木を削り出した滑らかな曲線と、力強い生命感を宿した独創的な模様は、思わず見とれてしまう美しさだった。特に印象的だったのは、錘に使われた銅銭の錆びた緑色。なんとも神秘的な色合いが、このイカエギに深みを与えていた。
イカエギ作りは、名木探しから始まるという。名木が見つかれば、職人たちは丁寧に削り、滑らかな曲線を持つイカエギを形作っていく。そして、まるで縄文土器のような模様を焼き付けて完成となる。
「イカ引き」と呼ばれる夜間のイカ釣りは、月明かりに照らされた錦江湾で、静かに舟を浮かべて行われる。月明かりにきらめく水面、そして時折聞こえるイカの跳ねる音。夜空には満点の星が輝き、静寂を包み込む。烏賊餌木を手にして自然と一体化した薩摩藩士の姿を想像すると、どこか心を落ち着かせてくれる。